コラム
2019年04月05日

家族信託を利用する前に!家族信託に必要な手続きと税金について

将来的に認知症が心配なので息子に協力してもらって家族信託をはじめたいと思っているのだが、何から準備をしたらいいのだろうか?税金がかかるって本当なのか?といったご質問を受けることがあります。

そこでこの記事では家族信託をはじめるにあたっての必要な手続きと、かかる税金についてご説明します。家族信託を考えている方はぜひ参考にしてください。

 

家族信託の当事者

まず家族信託の基本的な形をおさえましょう。委託者、受託者、受益者が、家族信託の基本的な当事者です。委託者、受託者、受益者とは具体的にはどのような人なのか、次のような場合で考えてみましょう。

アパート経営をしている高齢の父の認知症対策として、家賃収入を得るのは父であるものの、息子が家族信託の受託者となって不動産の管理を行う。

この場合、家族信託の当事者は次のようになります。

委託者 : 父
受託者 : 息子
受益者 : 父

委託者と受益者が同一人物であることがポイントです。必ずしも同じである必要はなく、例えば受益者が姪であるパターンもあります。

 

家族信託をはじめる手続き

家族信託を開始するには、まず委託者と受託者との間で信託契約を結び、その後、不動産が対象になっていれば法務局に登記を行います。具体的にどのようなものなのか、それぞれ詳しく見てみましょう。

信託契約とは

信託契約とは、委託者と受託者が契約書を交わし家族信託についての取り決めをすることです。信託の対象となる財産の内容や管理の方法、受益者を誰にするかなどを個別に決めます。

信託契約の内容

信託契約の内容について、個々に見ていきましょう。

・対象となる財産
信託の対象となる財産には、土地や建物などの不動産、預貯金、株式などの有価証券があります。どの財産信託するのかはっきりさせましょう。

・当事者
委託者、受託者、受益者の3人を決めなければなりません。委託者自身が受益者となるケースが多いですが、必ずしも同じ人物である必要はありません。

受託者選びは慎重に行いましょう。大切な財産を預けるので、専門家か信頼のおける親族などが候補者になると思います。

また、委託者が亡くなった後もこの関係は継続されることが前提ですので、受託者と受益者の関係が円満にいくよう気を配っておくことも大切です。

・内容を決める前に大切なこと
対象となる財産、当事者を決めることは当然必要なのですが、それよりも大切なのが当事者や家族のご理解です。

認知症対策といった老後の生活に備える方法は家族信託以外にも任意後見契約や遺言書などの方法がありますが、家族信託には委託者の意識がしっかりしているうちに、信託財産の運用状況を確かめることができるという利点があります。

このことをしっかり当事者やご家族の間で理解し、信託契約の内容を決めていきましょう。

また、家族信託に詳しい専門家に相談し、専門的なアドバイスをもらいながら信託契約書を作成し、公正証書にしておくことがとても安全です。公正証書にしておくと契約違反などの事態が起こった場合に信用性の高い証拠文書となります。更に契約者が自分の責任を認識し契約違反などの予防にもなります。

信託登記

信託契約を締結し、その対象となる財産に土地や建物といった不動産がある場合には法務局に信託登記を行います。信託登記は一般の方は普段はやらないお手続きだと思います。そのため難しいと感じたら専門家に相談することをおすすめいたします。

銀行口座など

お金を信託する場合には、専用の口座を作るのが理想的です。まだあまり普及していませんが信託用の口座というものを開設してくれる金融機関もあります。

信託口座は受託者が破産したりお亡くなりになった場合も、影響を受けることはありません。

しかし、信託口座に対応している金融機関は少ないため、受託者の個人口座を使用するケースが多いです。

 

税金

家族信託について、発生する税金について見ていきましょう。委託者、受託者、受益者の誰にどんな税金がかかるのか、それぞれ見ていきます。

委託者にかかる税金

特殊な場合を除き、委託者には税金はかかりません。

受託者にかかる税金

受託者は財産の管理を行っているだけで実質的な所有権は持っていないので、税金は基本的にかかりません。ただし、信託財産が不動産の場合のみ登録免許税と固定資産税がかかります。

・登録免許税
信託による所有権移転登記の登録免許税は、「固定資産税評価額×0.4%」となります。
ただし、土地の所有権の信託の登記は軽減措置があり、「固定資産税評価額×0.3%」となります。

・固定資産税
不動産の名義は受託者になっているので、固定資産税の支払通知書は受託者に届きますが、実質的な所有者は受益者ですので、管理費用として信託財産から拠出することが認められています。

受益者にかかる税金

「委託者と受益者が同じ場合」と「委託者と受益者が異なる場合」でかかる税金が変わりますので、それぞれ個別に見ていきましょう。

委託者と受益者が同じ場合

この場合、受益者に税金はかかりません。なぜなら、委託者と受益者が同一人物なので財産の移転などが発生しないからです。

委託者と受益者が異なる場合

この場合、信託財産の実質的所有権が受益者になるためいくつかの税金が発生します。

・贈与税
信託契約成立により委託者から受益者に対する贈与が行われたとみなされるので、贈与税が発生します。相続税に比べると贈与税は高額になりやすいので注意が必要です。そのため委託者を受益者として信託契約をするのがおすすめです。

・相続税
信託契約で一次受益者が委託者、二次受益者が相続人と指定され、一次受益者である委託者が死亡し二次受益者に受益権が移った場合、相続税が発生します。

民法上では相続ではないのですが、税法上ではみなし相続とみられて相続税の対象となります。 なお、この場合は遺留分減殺請求の対象になるので、その点の注意も必要です。

 

まとめ

家族信託をはじめるには、まず当事者間とご家族に理解してもらい、十分に熟考し話し合いを重ねた上で信託の内容を決めていきましょう。その後は必要な登記などの手続があり、また、契約の内容によってかかる税金が変わってきますので、しっかりと確認した上で分からないことは専門家に相談しながら家族信託の準備をしていただくことをおすすめいたします。