生前贈与について
相続税の改正により、平成27年1月1日以降に発生した相続税の基礎控除額が改正前より下がり、相続税の納税対象者が増えました。相続対策というと遺言書の作成を思い浮かべる方が多いですが、遺言は亡くなったあとの財産を自分の希望通りに承継させる制度なので、相続税対策にはなりません。相続税対策としては生前贈与をしておくことが有効となります。
生前贈与とは、元気なうちに財産を譲り渡しておくことです。譲り受ける方(受贈者)の承諾を受けて贈与契約をし、相続財産を減らすことで相続税を低く抑えることができます。
相続対策による生前贈与は、ご年配になってから急にはじめてもあまり効果が得られないケースもあります。なぜなら相続開始前3年以内の相続人に対する贈与は、法律上相続財産に含まれて相続税が課せられるからです。ですから、相続対策はできるだけ早いうちから計画的に行っていくことが理想的です。
下記に相続税対策として暦年贈与制度、相続時精算課税制度についてご紹介いたします。それぞれにメリットとデメリットがあるので、自分はどちらの制度を利用した方がよいのかご参考にしてください。
暦年贈与制度について及びメリット・デメリット
暦年贈与とは
1月1日~12月31日の暦年ごとに贈与をし、その贈与の額が110万円以下ならば贈与税がかからない制度です。 贈与できる財産は、現金、預金、不動産(土地、建物)、株式、有価証券などがあります。 評価額110万円を超えている土地や建物といった不動産は評価額110万円以下の持分を移転する方法で行います。
例えば夫、妻、長男がおり、夫の財産として評価額2,500万円の自宅、預貯金3,000万円の合計5,500万円があったとします。この事例の場合、相続税の基礎控除額以下にするためには夫の財産を4,200万円(3,000万円+600万円×2人)以下にする必要があります。そのため、自宅の持分を妻と長男へそれぞれ毎年110万円分贈与すると、6年で1,320万円(110万円×2人×6年)の財産を減らすことができ、夫の財産が4,180万円となるため相続税対策となります。また、贈与は妻や子だけでなく、子の配偶者や孫にもできます。贈与税は譲り受ける人が基準とされるため、子や孫など財産を譲り渡す人が増えると、それぞれに110万円以内で贈与をすることで短期間で相続税対策ができます。
ただし、贈与を受ける側は注意が必要です。贈与者一人につき110万円まで贈与税がかからないのではなく、複数人から贈与を受けた場合はその合計が110万円を超えてしまうと贈与税の課税の対象になってしまいます。
暦年贈与のメリット
- 毎年正しく贈与することで、税負担を少なくして相続財産を毎年110万円以内で減らすことができます。
- 贈与をした年の法律の規定によって課税対象になるため、将来の税制改正等の影響を受けにくい点があります。
- いつでも相続時精算課税制度の利用に切り替えることができます。
暦年贈与のデメリット
- 毎年正しく贈与することで、税負担を少なくして相続財産を毎年110万円以内で減らすことができます。
- 贈与をした年の法律の規定によって課税対象になるため、将来の税制改正等の影響を受けにくい点があります。
- いつでも相続時精算課税制度の利用に切り替えることができます。
相続時精算課税制度について及びメリット・デメリット
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、基礎控除額(2,500万円)までは贈与税が非課税で生前贈与が可能で、基礎控除額を超えた贈与をした場合には一律20%の贈与税がかかり、相続開始時に既に支払った贈与税額と相続税額を清算する制度です。
例えば父、母、長男がおり、平成30年8月3日に父が長男に評価額1,000万円の土地を贈与したとします。本来、長男は翌年の平成30年度の確定申告の際に贈与税の申告をしなければなりません。しかし、相続時精算課税制度を活用すると、贈与税を納税する必要がなく、将来父が亡くなった時に、相続税の課税対象であれば相続税を支払います。
相続時精算課税制度の概要は次のとおりとなります。
- 贈与する人は60歳以上の父母又は祖父母で、贈与を受ける人は20歳以上である贈与者の直系卑属(子や孫)です。この時の年齢は贈与をした年の1月1日が基準となります。
- 贈与者ごとに2,500万円までの贈与には贈与税がかかりません。2,500万円を超える贈与については贈与税がかかり一律20%です。
- 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に、税務署へ相続時精算課税制度を選択する届出をします。
- 相続時精算課税制度を選択する旨を届け出ると以後贈与者が亡くなるまで継続され、暦年課税に変更することはできません。
例えば父から2,500万円の贈与を受け、また、母から2,500万円の贈与を受けた場合に、合計5,000万円を無税で贈与を受けることができます。
相続時精算課税制度のメリット
- 贈与時・相続時のどちらも基礎控除額以下であれば、贈与税・相続税のどちらも非課税となります。
- 贈与財産は贈与時の評価額を基準に課税されるので、値上がりが予想される不動産・株式等を事前に贈与すれば相続税の節税効果があります。
- 贈与者の意思に基づく財産の承継ができます。
相続時精算課税制度のデメリット
- 一度、相続時精算課税制度を選択すると、その後は暦年贈与制度を利用することができなくなります。
- 不動産を贈与する場合、登録免許税が相続登記より高額です。相続登記の場合は登録免許税が固定資産税評価額の0.4%ですが、贈与登記の場合の登録免許税は固定資産税評価額の2%になります。
- 小規模宅地等の評価減の特例を受けられる不動産を贈与した場合、相続の際にその特例の適用を受けられなくなります。
暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較
贈与者(財産をあげる人)
暦年贈与は年齢制限はありませんが、相続時精算課税制度は60歳以上の人です。
受贈者(財産をもらう人)
暦年贈与は年齢制限がありませんが、相続時精算課税制度は20歳以上である贈与者の直系卑属(子や孫)です。
控除額(税金がかからない贈与額)
暦年贈与では1年(1月1日から12月31日まで)につき110万円以内、相続時精算課税制度では贈与者一人につき2,500万円までです。
税率
暦年贈与では基礎控除額(110万円)を引いた後、贈与した額に応じた税率等で算出します。相続時精算課税制度では2,500万円を超えた額につき一律20%が課せられます。
相続税との関係
暦年贈与では相続開始3年以内の贈与は相続財産に加算されます。相続時精算課税制度では全てが相続財産に加算されます。
適用
暦年贈与は、相続時精算課税制度を選択していなければ毎年適用されます。相続時精算課税制度は、一度選択した後は全ての贈与に適用され、暦年贈与に戻ることができません。
その他
暦年贈与は、暦年贈与を活用してからタイミングをみて相続時精算課税制を選択すると双方のメリットを得られます。相続時精算課税制度は、一度に多くの資産を贈与することができるので、贈与者の意思に基づく財産の承継をすることができます。
配偶者控除について
暦年贈与では1年で110万円を超えた時から贈与税がかかりますが、これに加えて配偶者控除の特例というものがあります。これは婚姻関係が20年以上などといった一定の条件を満たす配偶者に居住用の不動産、またはそれを取得するための資金が贈与された時は、贈与税について基礎控除額(110万円)の他に最高2,000万円までの控除が受けられるという制度です。
また、配偶者控除の特例を活用した居住用不動産等の贈与については、相続発生3年以内の贈与であっても相続財産に含まれません。